2013年12月04日

小春日和を抱きしめて・5

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小春日和を抱きしめて・終わり

小春日和を抱きしめて・5





転院先の病院の同じ敷地内にある特定養護老人ホームに丁度欠員
ができ,そちらに引っ越した。

何年待ちというケースが多いのだが、よほど運がよかった。職員の皆
さんはとても親切だった。



そこで母は寝たっきりでひもすがら過ごすしかなかった。身体がえびの
ように曲がったままかたまっていった。目から段々と表情がなくなっていく。

食事はおかゆをさらにミキサーにかけた練り状で、それでも誤って気管に
入っていくのではないか冷や汗ものだった。


2年ほど経ったとある朝、ホームから電話があった。トキンとした。昨夜か
ら何か胸騒ぎが止まらなかったのだ。

母が危篤状態だという、移送したと,きかされた大津の病院にタクシーを
飛ばしながら兄弟たちに携帯で連絡をとった。



病院につくと、もうすでに一台のベッドの上で母は、ただ一個の物体とな
ってゴロンと転がっていた。

涙は出なかった。瞬間胸のうちを去来したのは、ご苦労様、よく頑張ったね
という一陣の、しかし名状し難い想いだった。



二日後葬儀を済ますと、火葬場へと向かう。ぶ厚い鋼鉄の扉が重苦しい金
属音をきしませて閉まると、ほどなく内部では真紅の炎が燃え上がった。

小一時間もすると館内放送で案内があった。微風にも飛んでいきそうな風情
で、台の上には真っ白な灰の微粒粉だけが残っっていた。

妻が傍に来ると、黙って右の手のひらを僕の肩に重ね、僕の眼を覗き込
んだ。僕は返すように小さくうなずいた。



お骨をお墓に納めると自動車に分乗してめいめい帰途についた。
まだ一月だというのに、春のような暖かさだった。

窓外を町の風景が駆け抜けてゆく。陽光の無数の粒子がそこにはとび跳
ねていた。かすかにエンジンの音がする。


僕は心の中で母に語りかけていた。

ねえ、母さん、お願いだから教えてよ、
僕たちの乗ったこの車は一体どこに向かって走っているんだろうね?
だってどこまで行っても、もう何も見えないんだよ。

昨日や明日の風だって、素知らぬ顔でどこかに飛んでいっちまった。



軽いめまいを覚えると、身震いがひとつ走った。僕は両の腕で、自分の
胸を抱きしめた。

ああ、今日のこの辺りはどうしてこんなにも眩しいのだろう・・・・?

                       (おわり)



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Posted by 熊本の結婚相談所むつみ会 at 12:15│Comments(0)日記
 
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