2022年07月25日

学校と寅さんと山田洋次


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1人、立っている、テキストの画像のようです


学校と寅さんと山田洋次



夜間中学なんてあったんだ、この映画観るまで知らなか
った。東大卒の山田監督が、夜間中学を通じて学校そ
のものありかたを模索した。稀代のヒューマニストの面
目躍如と言ったところ?
夜間高校でもない、まして夜間大学でもない、なにしろ
中学である。読み書きソロバンができない人だってくる、
五十歳過ぎて・・・。
もちろん非行少女や登校拒否、知能障害、人種差別、なん
でもありだ。その一人ひとりのドラマを実に丁寧に描い
てゆく。
「学校」シリーズIIでは高等養護学校、IIIでは職業訓練校
IVでは不登校が舞台とかテーマになってる。
結論から言えば、このシリーズは学校そのものについてと
いうより、学校というテーマを媒体にして、人間関係の真
実にアプローチしようとしている気がするのだ。それは、
パッケージになったチャチな知識や情報自体でなく、生身
の人間の語る一言半句の中にあったりするものだ。
砂浜の白い砂に埋もれた貝殻のように。
学生生活の中で(特に進学校)一生を通じて忌憚なく付き
合える親友と巡り会えた。いまどき、そんな奇特な人が一
体どれくらいいるものだろうか?
あるいは師なんて大げさなものでなくとも、ウンとうなづ
けるような教師に出会えた青年はどれくらいいるだろう。
ラストのホームルームの後で、えり子がクロちゃん先生
に、将来教師になると打ち明けたのと打って変わって、
僕は中学時代に教師にだけはならないと誓った。
どうして?えり子とは遠く隔たった嫌なものを見てしまっ
たからとでも言っておく。
話は変わるが、
メジャーリーグに挑戦して挫折する選手が多い中で、突出
した選手には、どうもある種共通した要素があるようだ。
それは「修正能力」。
スポーツのみならず、生き馬の目を抜くようなシビアな世
界では、生半可な素質のみでどうにかなるものではない。
素質に上乗せされるプラスアルファがモノをいってくる。
それ次第で年棒数十億円のスター選手と、
ロッカーに自由契約(クビ)の通知の張り紙を張られる選
手に峻別される。
「修正能力」の対語はといえば「再現能力」。
コーチに教えられた通りにプレーできる能力。
"コーチにとっての優等生"
それでも大したものかもしれないが、だけでは到達できか
ねるのが「天才」という存在。それは、天から降ってくる
(天然)から天才なのであって、天の祝福はそれぞれのア
タマとココロのなかに標準装備されている。そ
れを有り難く頂戴するのはあなたの掌であって他の人の掌
ではない。
良いコーチというのはそういう事情を熟知していて、
悪いコーチというのはそうでない、言い換えれば折角の
天与の才を殺してしまう。
そしてそんな悪いコーチが今の世にはいかに溢れている
ことか。
「学校」なんてところはその格好のモデルになってしまっ
たのではないか、というのは僕の経験からきた実感だ。
「学校1」はクロちゃん学級の八名のクラスメートのプレ
ゼンテーションを前半部分にして、やがて五十歳代の同級
生イノさんの生と死をめぐる展開へとなだれ込んでいく。
井上某という実在の人物をモデルにしたストーリーらしい。
そんな着眼がこの物語の核になっていることに、時ととも
に観客は感付き始める。
不遇を絵に描いたような人生。
小学校もロクに出ていない初老の男が、夜間中学で始めて
心が通じ合う仲間と出会い、学ぶ喜びを満喫する。
しかし彼の悲しすぎる人生は、その肉体深く蝕んでいた。
そして卒業を目前にして儚い命を閉じるのだ。
山田洋次監督はこの切ない物語を、お涙頂戴では流したく
なかった。それでハイライトはホームルームでのディベー
トととなる。
テーマは「幸福」について。
イノさんは果たして本当に不幸だったのか、それとも?
自分自身の人生に照らし合わせながら、ひとりづつ答えを
探してゆく。
これは誰にとってもとても難しい問題。
勉強ができるからといって解けるでもなく、
年齢を重ねたから、知性なるものがあるから解けるもので
もない。
多分生と死の問題が、一度死んでみなけりゃトンとわから
ないように、生きてる間は永遠の謎々なのかもしれない。
だから一人一人が手探りで近づいていくしかない。
だが他方で一生をかけてわざわざ遠のいていく人だって
いる、ってよりだんだんそんな人だらけになってきたような。
残念ながら、この物語はどうやら、そんな人だらけのもの
ではないようだ。
それではディベートの様子を眺めてみましょうね。
重労働をしながら通学しているカズは、
あんな惨めな人生が幸福だったはずがない。
かりそめの幸福感があったとしたら、そのこと自体が悲し
すぎるだろう。もっと世の中を恨めよ、
という。
焼肉店を経営して、子どもを育て上げ、イノさんと同じよう
に五十歳を過ぎて入学した、在日朝鮮人の女性、オモニは
いう。
不幸でない人生なんてない、ならば自分が幸福だと思えば、
それでいい。イノさんは幸せだったし、自分だってそうだ。
じゃあ、そう思えればいいということは、幸福も不幸も
錯覚なの?
という反論が当然のように出てくる。
人生とは単なる錯覚なのか?こうも不幸も。
確かにそうなのかもしれない。
ここで教室に一旦沈黙が訪れる。
それを破ったのが、少年院出の非行少女だったみどり。
学校に戻れば、先公はよってたかって犯罪人扱いだし、
家にもどればアル中の父親だ。
自暴自棄になったみどりは、シンナーをやり身体をぼろぼ
ろにして、恐喝や売春やればどうにか生きていけるし、
そんなもんだとしょんぼり夜間中学の校門の電柱に座り込ん
でいたところに、
「どうしたの?この中学に入りたいの?」
と優しく声をかけてくれたのが・・・・
「このくろちゃんだったんですけど・・・」
と涙なんか見せたこともないみどりが涙ぼろぼろで、
担任の黒井先生(西田敏行が好演)を指さす。
その時こんな私でも幸福になれるかもしれない、
と思ったんだよ。
あたたかな眼差しは陽射しのようなもんで、氷のようなかた
くなな心を溶かす、一瞬にして。
くっちゃべるなよ、ねえ、そんな時はさ。
オサム、君はどう思う?くろチャンこと、黒井先生はたずねる。
知能障害のオサムは少し考えて
「幸福って、・・・・やっぱりお金かな・・・」
失笑が洩れる。
黒井先生はオサムを庇うようにいう。
「いやいや、おかしくはないよ。そうだよ、お金は大切だよ、
オモニだっていつもいってるだろう、お金さえあればなあって」
そりゃそうだ、皆幸福はお金で買えるなんて平気で思ってい
る時代だから。
しかし、誰よりも貧しい境涯にある彼らに、そうじゃないよ
とい言わせているのはなにだろう?
単なる負け惜しみ・・・?まさかね。
じゃあ、なあんだ?と問いかけたまんまエンドロールとなる。
僕の「学校」の投稿へのコメントで、
Mさんは、山田洋次作品の中での最高傑作はこの作品だと。
またNさんは「霧の旗」(倍賞千恵子さん主演の松本清張
原作の作品)だと。
まあ他にも「幸福の黄色いハンカチ」だとか、「同胞」、
「小さいおうち」だとか、甲乙つけがたい作品が目白押し
です。それでいてオリジナルシナリオ作家で、稀に見る多
作ですから、間違いなく映画界のレジェンドとなる監督
だと思います。
そこで僕はというと、やはりシリーズを一本の作品と見立
てたら、「男はつらいよ」をナンバーワンに挙げたいなと
思います。
シリーズのスタートは、七十歳の僕がテイーンエイジャー
だった頃、高度経済成長に向けてエンジンがかかりだした
時代、そして世はまさに学歴社会プラス一億総サラリーマ
ン化へと大きな変容を遂げ始めました。
そういう時代背景とは無縁の、自由気ままともいえる寅さ
ん的存在というのはだから、僕も含め多くの一般人にとっ
て、一種の憧れというか、現実とは異なるもう一人の自分
を投影できる良きモデルでもあったわけです。
それが半世紀近くのシリーズの中で次第に変遷していくの
が見て取れるような気がするのです。
寅さん自身が変わったのではなく、周りが、僕たちの方が
変わった。そうして当然のように寅さんの見方、受容のス
タンスが、ある意味百八十度変わってしまった。
宿無しがホームレスになり、放浪者が落ちこぼれになって
いった。
もう憧れの存在ではなく、あんな人になっちゃダメよって
子どもに言って聞かせるような反面教師的モデルに落ちて
いくのです。
それをただ時代の流れだ、どうしようもないことだで片付
けてしまうるのか、それとも・・・。
山田洋次監督はそういう諦め方に対して、はっきりNOを
突きつけ、警鐘を鳴らしているのではないか。
それがこの「学校」という作品ではないかとも思うのです。
世の中は確かに変わる(変わりすぎ?)、そしてそれは不
可抗力なのかもしれないが、その一方でどんなに世の中が
変わろうとも、変わらない、変えてはいけないものがある
のだと主張している。
そこで学校という舞台をあえて選んだのは、そこが時代の
出発点、僕たちが生きている社会という情報系の司令室に
なっているからではないのか、という気がするのです。




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Posted by 熊本の結婚相談所むつみ会 at 07:53│Comments(0)書評など
 
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